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名古屋に日本一「道徳的」な地名があった

名古屋地名の由来を歩く【面白地名③】

「道徳」の由来は?

 注目に値するのは、この「道徳」、「道」と「徳」をつなぎ合わせた合成地名でないことだ。文字通り「道徳」(モラルの意味)に由来するれっきとした地名なのである。

「道徳」の由来は、文化9年(1812)に、それまであった御替地(おかえち)新田を「道徳新田」と改称したことにある。御替地新田は尾張藩が農民のために替地として与えたもので、その方針が「道義を以て得を施す」であったことから「道徳」という新田名に変えたのだという。

 これはまさに特筆すべき出来事である。新田を与えるに際して、道義を以て得を施すことによって、農業に精せい励れいせよとのお達しであったということだ。

 街を歩いていると、やや広い道路があり、そこに「道徳コミュニティ道路 文政のみち」と書かれた大きな石を発見した。「文政のみち」とは何と趣深い言葉だろう。「みち」はもちろん道路のことではあるが、人生の道をも意味している。先の道徳小学校ではどんな道徳教育をしているのだろうか。「道徳」の由来を考えさせることによって、子どもは自然に育っていくことだろう。

今に残る「文政のみち」

 現在町名としては「道徳北きた町まち一〜三丁目」「道徳新しん町まち一〜九丁目」「道徳通一〜三丁目」まである。

 名古屋には「極楽」「道徳」など、趣深い地名が多く残されている。これは名古屋の貴重な財産であるといってよい。

〈周辺ガイド〉

道徳公園:このあたりは江戸時代後期に新田として開拓されたところ。大正時代になると近隣に巨大な工場が多数立地していたことから、労働者たちのための文化・娯楽施設もつくられ、名古屋市内でも屈指の大繁華街ができあがった。道徳公園は区内で最も古い公園。園内には文政4年(1821)に道徳の新田を開拓した、海西郡塩田村(現在の愛西市)の豪農鷲尾善吉の頌徳碑が建っている。

『名古屋地名の由来を歩く』(著・谷川彰英)より構成〉

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谷川 彰英

たにかわ あきひで

筑波大名誉教授

1945年長野県生まれ。ノンフィクション作家。東京教育大学(現・筑波大学)、同大学院博士課程修了。柳田国男研究で博士(教育学)の学位を取得。筑波大学教授、理事・副学長を歴任するも、退職と同時にノンフィクション作家に転身し、第二の人生を歩む。筑波大学名誉教授。日本地名研究所元所長。主な作品に、『京都 地名の由来を歩く』シリーズ(ベスト新書)(他に、江戸・東京、奈良、名古屋、信州編)、 『大阪「駅名」の謎』シリーズ(祥伝社黄金文庫)(他に、京都奈良、東京編)『戦国武将はなぜ その「地名」をつけたのか?』 (朝日新書)などがある。

 

 

 

 

 

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